新田佳浩、逆転で奪取した8年ぶりの金メダル・クロスカントリースキー/平昌パラリンピック

新田佳浩、逆転で奪取した8年ぶりの金メダル・クロスカントリースキー/平昌パラリンピック
2018.03.18.SUN 公開

8年ぶりの頂点だ。新田はフィニッシュ後に雄たけびを上げて喜びを爆発させた。

17日、クロスカントリースキー・クラシカルのミドル(10㎞)で、新田佳浩(男子立位/LW8)が金メダルを獲得した。14日に行われたスプリントの銀メダルに続き今大会2個目のメダル。金メダル獲得は、2個の金メダルに輝いた2010年バンクーバーパラリンピック以来、自身3個目となった。

これまで単年で取り組んでいたトレーニングを4年計画で行い、大舞台で輝いた © Getty Images Sport

逆転のレース

「4年前よりも、8年前よりも今のほうが間違いなく強い自分。力を出せれば必ず頂点に立てる」――並みいる強豪がピークを合わせてくるパラリンピックの舞台を知り尽くした男は、そこに対応できるだけの強い気持ちを備えてスタートラインに立った。

この日のレースは、1周およそ3.4㎞のコースを3周する。勢いよくスタートした新田は、雪質が変化する最初のポイントでいきなり転倒したものの、「10㎞だからなんとかなる」と気持ちを切り替え、得意の上りをテンポよく駆け上がる。「今までのように最初に勝負をかけるわけではなく、最後のラップまでしっかりスピードをキープすることを意識していました」

残り1周で3位。「チャンスは必ず来る」。冷静だった。ソチ後、得意の上りだけでなく、平地でも心肺機能を効率的に使えるよう上体を起こしたフォームに変えた新田は、この日のために強化した下半身から固い雪面にパワーを伝え粘り強く滑った。

「グレゴリーとの差が詰まってるぞ!」
コース脇のコーチから、1位のウクライナ選手との差が11秒と伝えられる。

最後の一周、新田は全力を注いだ。
「腕がちぎれても、脚がちぎれても、心臓が壊れても。(すべての力を)出し切らないとゴールした時に後悔する」

残り1.5km地点でトップに2秒先行しているとわかると、残りの力を振り絞る。最後のカーブを下ると、スタンドの声援が聞こえた。そして新田は、24分06秒08でフィニッシュし、金メダルを手にした。

最後まで全力で走り抜いた末の金メダルだった © Getty Images Sport

涙の意外な理由

ゴール後、少し涙を流した新田。実はこんな理由があった。

「長年のライバル、イルッカ(・トゥオミスト/フィンランド)選手は今回が個人種目として最後のレースでした。だから、一緒に表彰台に立ちたかった。それが叶わずさみしくて、これを機に一線から退く一緒に戦ってきた仲間を思い、感傷に浸ってしまいました。いいことも悪いこともあったなかで、切磋琢磨しながらやってきたので……」と声を震わせて語った。

2006年トリノ大会はイルッカが4位で新田が5位。2010年バンクーバー大会では新田が1位のときイルッカは3位。2014年ソチ大会ではイルッカが2位で新田が4位だった。新田の進化の過程には、常にライバルであるイルッカの存在があった。

先に行われたスプリント(クラシカル)では新田が2位、イルッカ(右端)は3位だった © Getty Images Sport

イルッカは一時は新田をリードしていたが5位でゴール。新田は最後に「長い間、お疲れ様でした」と伝えるために、イルッカを待ったという。

自分の金メダルより、3つ年下のライバルに涙した新田。クロスカントリースキーの競技生活を四半世紀続け、パラリンピックに6大会連続出場した。そこで手にしたものは金メダルだけでは決してなかった。

「一番近くで支えてくれた家族に金メダルをかけてあげたい」 © Getty Images Sport

そして、記者から8年前の金メダルとの違いについて聞かれると、
「バンクーバーの時は獲りたいと思って獲りにいったんですけど、今回の金メダルはおまけのようなもの。自分の力を出し切ることが一番重要でした。僕自身の準備ができたこととそれを出し切れたことがよかったなって思います」 と話し、最後は満面の笑みを見せた。

text by Asuka Senaga

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