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車いすテニス
鏡の前の自分に「I can do it」、車いすテニス・国枝慎吾が金メダル奪還で最強を証明!
東京2020パラリンピックの車いすテニスは、9月4日に競技最終日を迎え、男子シングルスの国枝慎吾が決勝戦でトム・エフベリンク(オランダ)に2-0で勝ち、2大会ぶり3度目の優勝を飾った。
内なる自分との戦いに勝った。「最後はテクニックじゃなくて、このパラリンピックだけはメンタル勝負になるというのは、分かっていた」と振り返った国枝は、金メダル奪還について何度も「信じられない」と言った。
挑戦者よりも、挑戦者らしく
決勝の相手となったエフベリンクは、世界ランキング8位。過去の対戦では9勝0敗、いずれもストレート勝ちと相性が良い。このシチュエーションが「勝たなければいけない自国開催の優勝候補」の国枝と「失うもののない挑戦者」の構造を作り出すようだと、アップセット(番狂わせ)の匂いが立ち込めて来る。
しかし、心配は無用だった。黄色と赤のグラデーションで燃え上がる炎を彷彿とさせるユニフォームで登場した国枝は、最初から気合い満点。世界ランキング1位が、まるで挑戦者のように相手に襲い掛かった。
最初のサービスゲームから、力強いショットで相手を追い込み、積極的に前へ詰めた。しかし、エフベリンクも力強いフォアハンドとバックハンドのスライスショットで応戦。2人が放つ打球音と気迫のこもった唸り声が静かなコートを行き来した。
第1ゲームでいきなりブレイクを許したが、肩を上下させ力を抜くような仕草を見せると、第2ゲームはデュースから鋭いリターンエースでブレイクに成功し、すぐに流れを引き戻した。第4ゲームで相手のミスが続くと、試合は完全に国枝のペース。第1セットを6-1で制した。
返り咲いた王者のウイニングラン
第2セットも要所でミスが出る相手に対し、積極的かつ粘り強く戦い、前に出てボレーでスライスショットをネット前に決めるなど、次々にポイントを奪った。相手はビッグサーバーだが、国枝のリターンが良いからなのか、ファーストサーブの成功率は50%と低く、ダブルフォルトも7回と苦しんでいた。
国枝はデュースとなった第4、5ゲームも連取する勝負強さを発揮。第8ゲームで6-2とし、勝利した。最後は、相手のショットがネットにかかった。
国枝は、応援していた日本選手団を見やった後、顔を覆い、わき上がる思いをこらえ、エフベリンクと抱擁を交わした。そして、無観客開催ながらスタンドにいた大会関係者、ボランティア、メディアからの鳴り止まない拍手にガッツポーズで応えると、感情を解放。涙を流して咆哮した。日の丸を背中に大きく広げ、車いすを手放しで操作しながらのウイニングランで、パラリンピック王者に返り咲いた姿を見せつけた。
重圧の中、勝ち切れずに焦っていた
今大会の優勝は、自分の中に芽生える恐怖に打ち克った証だ。経験豊富な実力者でも、栄冠にたどり着けない不安に襲われる。国枝は、この競技の第一人者だ。全豪、全仏、全英、全米の4大大会では、単複合わせて45回優勝という世界歴代最多記録を保持。パラリンピックでは、2004年アテネ大会で男子ダブルス優勝。2008年北京大会、2012年ロンドン大会で男子シングルスを連覇している。
しかし、前回のリオ大会はダブルスの銅メダルだけだった。若手の突き上げだけでなく、ひじの痛みとの戦いもあった。パラリンピックを大事に思うからこそ重圧を受け続け、苦しんでもいた。今季は、全豪、全仏、全英で優勝を逃し、焦っていたという。
国枝は「今回のキーワードとしては『オレは最強だ』と『I can do it(オレはできる)』と『I know what to do(やるべきことは分かっている)』。これを何度、鏡の前で、コートの中で言ったことか。バカみたいに何度も言いましたね。何度言ったか分からないです」と、何度も生まれる不安を叩きのめしながら前進した。
このスポーツを多くの人に見てもらえたことが一番
9歳のときに脊髄腫瘍で下半身まひとなり、小学6年生で車いすテニスを始めた。以降、着々と力をつけ、世界のトップアスリートになった。
日本では、今大会をきっかけに多くのパラアスリートの姿が報じられるようになったが、国枝はそれ以前から日本のスポーツファンなら知っているパラアスリートとして、パラスポーツのPR役を担ってきた存在でもある。
「パラリンピックを知らない方が2004年のときは多かったんじゃないかなと思いますけど、もう100%みんな知っていると思う。車いすテニスも、今回見てもらうことが多かったと思うので、本当にそのことがやっぱり一番。これからどう、みんなにこのスポーツのファンになってもらうかが一番大事なことでもあるので、僕自身が勝つことで、ちょっとでも貢献できたかなと思います」
その胸には、常に挑戦し、困難に打ち克ってきた日本パラスポーツのけん引者にふさわしい金メダルが輝いていた。
edited by TEAM A
text by Takaya Hirano
key visual by AFLO SPORT
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