「バスケやっててよかった……」車いすバスケットボール男子日本代表、アメリカと互角に戦い堂々の銀メダル
日本の車いすバスケットボール史に輝かしい1ページが刻まれた。東京2020パラリンピック最終日、9月5日に行われた車いすバスケットボール男子の決勝戦。日本代表は前回王者のアメリカに真っ向勝負を挑んだ。最後の最後までスコアが拮抗する激闘。最後は勝ち方を知るアメリカに敗れはしたものの、点差は60対64とわずか4点。堂々たる銀メダルだ。
夢の中にいるような試合
決勝戦こそ力が拮抗する展開となったが、実は、選手村に入村後、大会開幕前にアメリカと練習試合と行い、一度も勝てなかったという。そこから最終戦で互角以上の戦いを展開できたのは、大会を通じての成長抜きには語れないと、京谷和幸ヘッドコーチ(HC)は振り返る。
「初戦のコロンビア戦での勝利を機に、一戦ごとに強くなってくれた。その成長が自信になって、最終戦でいつも以上の力を出せたのではないか。今日のディフェンスが一番よかった」(京谷HC)
日本の成長はアメリカも感じていた。
「日本チームは、トーナメントを上がるにつれてどんどんレベルアップしていた。厳しい試合になると覚悟していた」(ロン・ライキンス監督)
藤本怜央(4.5)とブライアン・ベル(4.5)がティップ・オフした第1ピリオド、両チームで最初に得点したのは藤本。鮮やかなスリーポイントシュートを決めて見せた。試合をスリーポイントで入ろうと決めていることもある藤本だが、今回はそういうわけではない、と語る。
「夢の中にいたような感じで、スリーポイントを決めた実感がないんです。ただ、練習してきたスリーポイントが自分の体に染み付いていて、そこから行く自信があったのだろうと思います。そういう意味では、(最初はスリーポイントで行くと)決めていなかったけど、決めていたと言えるのかもしれません」
その後、日本のディフェンスが効いていたこともあり、アメリカはシュートを外す時間が続く一方、日本は得点を重ねる。しかし、ジェーコブ・ウイリアムズ(2.5)のシュートを皮切りに、アメリカは徐々に得点を決め始め、終わってみれば18対18の同点。第2ピリオドまでの前半を27対32と、アメリカの5点リードで折り返す。
「決め切るアメリカ」に教えられたメダルの取り方
第3ピリオド、日本は香西宏昭(3.5)のシュートで同点に追いつくと、速攻から鳥海連志(2.5)のシュートで逆転に成功。すぐに追いつかれるも、46対45と日本の1点リードで、最終ピリオドを迎えることになった。
金メダルをかけた第4ピリオド、京谷HCは勝負に出る。
「アメリカと戦うなら、日本の10人の中で一番スピードのある、(クラス)2.0、2.5、2.5、3.0、3.5と合計13.5のラインナップ(※)で勝負すると決めていた」
つまり、豊島英(2.0)、鳥海、赤石竜我(2.5)、古澤拓也(3.0)、そして香西の5人だ。途中交代で赤石と古澤が入り、勝負ラインナップがそろうと、「1本のシュート、一つのミス、何か一つで流れが変わる」(鳥海)緊迫した状態の中、日本は果敢に攻撃し、古澤と鳥海のシュートで5点差をつける。しかし、すぐに追い上げてくるアメリカに逆転を許し、58対61と3点差に。追いつきたい日本は、タイムアウト後、古澤がスリーポイントシュートを放つが失敗。
「シュートを決めるのは僕の仕事であり、責任。決め切れなかったのは悔しい」(古澤)
その後、豊島がファールゲームを仕掛ける。が、相手が悪かった。アメリカチームのキャプテンであり、アメリカの得点源であるスティーブ・セリオ(3.5)だったのだ。セリオはその時点まで、フリースローを外していない。この時も難なくフリースローで2点決め、点差は拡大。さらに残り28秒で今度は香西がファールし、再びセリオがフリースローで1点決めたことで、勝負がついた。
「アメリカは勝ち方を知っていて、残り約5分で我々がリードしたときに、エースのセリオがメダルを取るバスケットを我々に示した」(藤本)
というように、最後は、試合巧者アメリカの罠にはまり、セリオにファールするよう仕向けられたと見るのが妥当だろう。また、日本がシュートやフリースローを決め切れないシーンが散見されたが、セリオをはじめ、アメリカはシュートを打ちにくい体勢やタイミングでもきっちりシュートを決めてきたことも勝敗を分ける一因となった。
「セリオの決め切る力がすばらしかった。対して日本には苦しい中でタフショットを決めきる力がアメリカよりもちょっと足りなかった。今日はこの差が出た」(京谷HC)
※コートでプレーする5人のクラスの合計は14.0以内。
選手たちに芽生える金メダルへの渇望
わずかの差で金メダルを逃した日本。銀メダルを獲ったことへの満足感がある一方、若手選手からは「やっぱり金メダルが欲しかった」(赤石)、「3年後はちゃんと金メダルを取りたい」(古澤)との頼もしい声も聞かれた。
今は、表彰式で日本の国旗が掲げられたという快挙を素直に喜びたい。また、ここに至るまでに尽力してきた多くの選手やスタッフにも敬意を表したい。
しかし、ここからが新たなスタート。次はメダルではなく、金メダルへの挑戦が始まる。パラリンピック随一の花形競技、車いすバスケットボールで「君が代」が聴ける。そんな日が本当に来るのではないかと思わせてくれる男子日本代表に、惜しみない拍手とエールを。
<コメントは以下の通り>
京谷和幸HC
「メダル獲得という目標を達成できてよかった。テレビ放送やメダルのおかげで、競技への関心の高まりを感じている。ただ、満足するとそこで終わり。これからが大事なので、若い選手たちには、発破をかけようかな」
豊島英(キャプテン)
「(銀メダルは)僕たちが目標に掲げたこの5年間だけのものではなく、先輩方も含めて積み上げてきた歴史だと思うと、非常に重い。(代表活動は)今大会で終わると決めている。若い世代には、次がんばれと伝えた」
藤本怜央
「世界一の舞台で、世界一の相手に真っ向勝負で戦えたゲームだった。がむしゃらにやってきた(リオ大会からの)5年間は本当に長かったが、過去最高の結果を得たことで、自分の競技人生の一番の宝になった」
香西宏昭
「試合直後は、この大会が最後という選手たちともうバスケができないんだなと思うと涙が出た。この試合、もうちょっとだったのになという気持ちが強い。一緒に強化を図ってきたこの12人以外のメンバーにも感謝したい」
赤石竜我
「(決勝戦終了後)アメリカ代表が喜んでいる姿を見て、本当にあの色のメダルがほしかったなと。金メダルに向けてリベンジしたい。それでも、世界で2番目に強いチームということなので、胸を張って堂々と帰りたい」
鳥海連志
「リオからの約5年間、苦しい日々しかなかった。バスケットボールを続けるか悩んだ時期もあったが、続けてよかった。(銀メダルは)苦しい時間を乗り越えた結果。そう考えると、金メダルは近いものではないと思う」
秋田啓
「悔しい。ディフェンスで勝負して相手のいい流れを作らせなかったところが、接戦に持ち込めた要因かと思う。ただ、僕たちが圧力をかけられても決め切る力を持たなきゃいけないと感じている」
edited by TEAM A
text by Masae Iwata
photo by Takashi Okui