【新春インタビュー】自転車・杉浦佳子「50歳で人生が変わった」

【新春インタビュー】自転車・杉浦佳子「50歳で人生が変わった」
2022.01.05.WED 公開

東京2020パラリンピックの自転車競技で2冠に輝いた「パラリンピック日本代表史上、最年長の金メダリスト」。2016年の落車事故から立ち上がり、金メダルを手にした杉浦佳子のニュースを見て多くの人が奮い立った。「最年少記録って二度とつくれないけど、最年長記録ってまたつくれますよね」と話すなど、印象的な言葉も残した金メダリストの胸の内とは。数々の力強い言葉と共にお届けしたい。

――年末年始はどのように過ごされているのですか。

私はぜんそくを持っているので、ここ数年、年末年始はあたたかい沖縄で合宿をしています。
2021年は東京パラリンピックがあったり、私生活でも初孫が誕生したりして幸せな年でした。とてもありがたいことに、東京パラリンピック以降、取材や講演で休みもない状態です。だから、また「自転車中心の生活に戻りたい」という気持ちが自然に湧いてきました。

――最近の練習状況は。

実は、2021年12月の全日本トラックの開催が急遽発表され、その練習メニューを作るというときに体力の測定をしたのですが、想像通り、数値が落ちていたんです。だから、またここからパワーを上げていきたいと思っています。コーチとは「練習していないとただの人だよね」と話していました(笑)

――東京パラリンピックではトラックとロードに出場。トラック2種目で自己ベスト更新、ロードで2つの金メダルという大活躍でした。「トラックの借りはロードで返す」という力強いコメントも印象的でした。

トレーニングのかいもあって東京大会ではまずトラック(3km個人パーシュート、500mタイムトライアル)で自己ベストをマーク。私は決して若くありませんが、「ケイコ、速くなったね」と驚かれました。海外選手から「こんなに強くなったなら、ロードの坂も強いだろう」と言ってもらったのはよかったのですが、もっといい記録が出る感触があったので、力を出し切れなかった自分に腹が立っていました。トラックの指導をしてもらったオリンピアンの飯島誠さんの顔が浮かび、申し訳なくてすごくつらい気持ちになりました。でもここで立ち止まってはいられないので、ロードに向けて、練習で出すことができたもっといいタイムを出せなかったのはなぜか、いつもと違うことは何だったか、一つひとつ探っていって気持ちを切り替えました。

自国開催で初出場した東京パラリンピック photo by Jun Tsukida

――そして、8月30日にロード・タイムトライアルで1つ目の金メダル、9月3日にロードレースで2つ目の金メダルを獲得しました。偉業を達成した後、「できれば、これを最高の日にはしたくないな」と膨れ上がる喜びを抑えるかのように語っていました。

実は、あの瞬間は、金メダルの価値がわからなかったんです。とりあえず「大会が終わったな」という感じで。それから時間が経ち、今は喜んでくれる人たちの素敵な笑顔のおかげで、私が宝物をもらったような気持ちになり、その価値を実感しています。言ってしまえば、私の競技をしている上での一番の喜びは、自己ベスト更新です。でも、やはり金メダルは子どもたちをはじめとして、本当にいろんな人が喜んでくれる。例えば、自転車のイベントでは機嫌のよくなかった子どもが金メダルを見た瞬間、表情を変えて嬉しそうにしてくれましたし、特別支援学校に訪れた際には、重度障がいのある児童が金メダルを見てニコッと笑顔を見せてくれたんです。
さまざまなところで「ありがとう」と言っていただきますが、いい言葉ですよね、ありがとうって。こんな言葉をいただけるようになり、人生が変わるってこういうことなんだなと驚いています。

金メダルを手にして「人生が変わった」 photo by Jun Tsukida

―――2022年はどんな年になりそうですか。

「再出発」の年です。パリ2024パラリンピックも目指すと公言していますし、競技を続けるためにも新しい環境に身を置くことになると思います。
ロードの世界選手権は秋にカナダで予定されていますが、トラックでターゲットになる大会はまだ予定が見えません。どうなるかわかりませんが、新たな環境に慣れながら、自己ベストを出せるところまで調子を持っていきたいなと思っています。またイチからスタートです。

――<2022年の杉浦佳子>をテーマに作文するとすれば……。

お題は「2022年の杉浦佳子!」

――ところで、静岡出身の杉浦選手。どんなお雑煮を食べるのでしょうか。

静岡風というより、杉浦家だけかもしれませんが……。うちはお肉を入れないんです。鶏肉はお節でいただくので……鰹出汁とお醤油であっさりしたお味です。具材は、お餅2個、人参、大根、白菜、油揚げ。私は掛川市出身なのですが、近所の方は、里芋なども入れていましたね。もちろん、静岡と言えばおなじみの削り粉(だし粉と青のり)もたっぷりかけます。

――最後に、パリに向けた意気込みを聞かせてください。

皆さんにはぜひよくてもダメでも挑戦する姿を見ていただけたら嬉しいです。私自身は、共に歩んでくれる人がいるので、一緒に楽しい時間を過ごした先に結果が出ればと思っています。本当に欲張りですみません!

text by Asuka Senaga
key visual by Atsushi Mihara

【新春インタビュー】自転車・杉浦佳子「50歳で人生が変わった」

『【新春インタビュー】自転車・杉浦佳子「50歳で人生が変わった」』