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クロスカントリースキー
ライバルの先輩とともに表彰台へ クロスカントリースキーの若手エース・川除大輝
2018年平昌大会でパラリンピック初出場を果たしたクロスカントリースキー・川除大輝。男子20kmフリーとスプリントクラシカルの9位が個人の最高成績だったが、北京大会では、2019年世界選手権のクラシカル(20km)王者として大舞台に挑む。
富山県出身。先天性両上肢機能障がい。LW5/7クラス(立位)。小学1年のとき、いとこにスポーツクラブに誘われたのがきっかけでスキーを始め、2015-2016年シーズンからパラノルディックの大会に出場。2018年、高校2年時にパラリンピック初出場を果たすと、2018-2019年シーズンには世界選手権やワールドカップ札幌大会で優勝を飾り、一躍北京大会のメダル候補に名乗り出た。日本代表に内定している北京大会ではクラシカル(20km)などに出場予定。
いくつかの競技を見たのですが、水泳で僕よりも障がいが重い選手が戦っている姿に勇気をもらいました。東京から北京まで半年しかないなかで、僕も誰かをパラリンピックで勇気づけられる滑りができたらと。また、いまチームについているトレーナーさんが水泳の選手と関わりがあって、どの選手も体幹が強いという話を聞きました。体幹は、どの競技にもつながっていることなので、僕もさらに鍛えなければと思いました。
――勇気づける滑りをするため、北京大会でどんなパフォーマンスをしたいか。そうですね……。まず平昌大会よりも上の成績を出すことが大切になるということと、欲を言えばメダルを獲りたいです。現実は甘くないですが、自分が持っている力を出せたら自然に結果も出て、僕を目に留めてくれる人もいるのではないかと思っています。
――いま、パラリンピックの金メダリスト新田佳浩選手との距離はどう感じているか。僕が新田さんに出会ったころ、新田さんはバンクーバーで金メダルをとったばかり。すごい世界で活躍しているあこがれの選手で、手に届かないところにいる存在でした。でも、いまは僕も成長して、世界で戦える力を持っています。自分のメダルも獲りたいという気持ちと同時に、新田さんと2人でライバルとして高め合い、一緒に表彰台に立ちたいという気持ちが強いです。
――そんな新田選手は「北京は集大成」とし、「自分の経験を後輩に伝えたい」と話している。新田選手は、ピンポイントに重要な試合に合わせてくるのがすごく上手です。そういう点では、僕は自分のことを多くわかっていない。技術も新田選手の方がまだまだ上です。でも、普段の練習で新田選手が競技面、技術面について、何かはっきりいうことはありません。自分で考えて身につけろという感じ。ただ、ヒントになるようなことを言ってくださいます。たとえば、「体幹がしっかりできているけど、足が開いている」という指摘を受けたことがありました。でも、そこからどうするかは自分で考えていかなければならない。いま一緒に合宿できている環境を1日1日大切にし、盗めるところを盗んでいきたいです。
――川除選手の成長は、2019年、スキーの名門であり、2020年に全日本学生スキー選手権大会(インカレ)で優勝した日大に入ったことも大きい。大学の寮生活のなかで競い合える仲間がいたといういい影響もあります。今年は春の合宿も参加できたので、調子の良さにつながっています。あとは3年生になって、寮の仕事もだいぶ減って、自分の時間が増えたのがよかったのかも(笑)。
――大学に入ってから筋力トレーニングも増えたと聞いている。ウエイトトレーニングは 、春は週に2回くらい。シーズンに入ってからは週に1回。昨年秋以後は、体幹はほぼ毎日です。体が大きくなったと自分でも思います。ちょっと腹筋が割れているくらいでしたが、いまはしっかり割れているし、胸筋や広背筋もついてきました。腕を振るときに当たる感覚があります。
――体が変わったことで、滑りに変化はあったか。クラシカルの上りはバランスを崩しやすかったんですが、体幹が強くなってきて、バランスがとれるようになってきました。以前だったら体がブレて、うまくまとまらない滑りをしていた後半も、最後までしっかりした滑りができるようになっています。
――クラシカルとフリー(スケーティング)、どちらが得意か。どちらも結果を出したいので、自分のなかでは、どちらかは決めたくありません。決めたくはないけど、結果が出ているのは、クラシカルかな。
――クラシカルとフリーの違いは。クラシカルは下りで加速しづらいので、ストックを持った選手と差をつけられやすいです。クラシカルではフリー以上に、上りと下りのつなぎの部分を意識します。フリーでしたら下りでも平地でも加速できる。スピードに乗れば、けっこう楽して滑れるというのはありますね。
――北京大会では、クラシカル(20km)で上位を狙うのか。そうですね。クラシカルロングで結果を出すことによって、自分にもチームにも勢いがつきます。
それから、リレーもメダルを狙いたい種目です。メダル圏内だった前回、僕のところで3位から4位に落ちてしまい、悔しい思いをしました。最終日にみんなで表彰台に立てたらいいなと思っています。
――川除選手の滑りの特徴はストックを持たないこと。気をつけていることは。上りは急になるほど、長くスキーに乗るとスピードも加速するので、体の回転数を上げて走るようにしています。平地は、上りと逆で回転数を上げてもただただ体が疲れるだけなので、大きく手を振る滑りを意識しています。
――世界のなかで、自分の強みは。小柄な分、ここでスピードを上げたいという大事なとき、回転数を上げてスピードを上げられるところが強みだと思っています。ただ北京大会は、人工雪なので寒くなると硬くなり、体重の軽い僕は、海外選手よりスピードが出しにくいという面が出てくるはず。カーブとか小回りの利いたところで数秒稼いで、大きな差にしていきたいです。
――川除選手が戦う立位カテゴリーは平昌大会と障がいの特性に応じた係数が変わり、より強さが求められるようになった。タイム的な計算では不利にはなりましたが、そこをどうこういってもどうにもなりません。こうなった以上、実力をつけて勝っていくしかないと思っています。
――北京大会の会場は高所。対策は。僕はそんなに低酸素トレーニングはやっておらず、高所の対策はしていません。夏場に大学の合宿で志賀高原に行ったくらいです。でも、高所への苦手意識がないですし、普通に追い込んだ練習をしていけば、どこでも頑張れるかなという気持ちでいます。
――いま、ライバルになりそうなロシア勢の印象は。ロシアは、昨シーズンで表彰台を独占していたので、やっぱり強い。本当に強いイメージしかないです。2019年の世界選手権ではロシアがいないなか、世界一になったので、ロシアもいるなかで勝ってみたいという気持ちもあります。
――最後に北京大会への意気込みを。平昌大会はけっこう緊張しました。でも、その後、いろいろな大会を乗り越えて、いろんな経験もできました。さらに成長した自分で2度目のパラリンピックに臨みたいです。
text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda