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北京パラリンピック前のラストレース! アルペンスキー男子座位3人が躍進を誓う
世界パラアルペンスキー(WPAS)公認「2022ジャパンパラアルペンスキー競技大会」(長野県・菅平高原パインビークスキー場)は、2月1日から4日間の日程で行われた。実施されたのは、高速系種目のスーパー大回転、技術系の大回転、回転の合計3種目。ここでは、北京2022冬季パラリンピック日本代表で、パラアルペンチームの主軸である男子座位3選手に注目した。
ソチ金の鈴木猛史は北京出場条件をクリア
「正直いうとホッとしています。情けない滑りで恥ずかしかったんですが、(高速系に続き)技術系の種目にも出られることになった安心感のほうが強いです」
大会2日目、大回転第1戦が終わり、合計2分01秒26で2位だった鈴木猛史(LW12-2)は、真っ先に安堵を口にした。
2014年ソチパラリンピックの回転で金メダルを獲得した鈴木は、前日のスーパー大回転第1戦で、3人中3位。タイムは1分03秒02だった。優勝した狩野亮(LW11)は58秒68で、2人には4秒34もの差がある。これには「ずいぶんセーフティーに滑ったタイム差でしたね」と狩野は半ば苦笑したが、仲間をねぎらう優しさがのぞいている。
狩野にとっては、トリノ、バンクーバー、ソチ、平昌と4大会をともに戦ってきた盟友・鈴木が、北京パラリンピックの出場資格を得て、チームメイトとして大舞台へ挑めることが決まったからだ。
鈴木は、コロナ禍で刻々と変わる社会状況に翻弄された一人だった。通常のシーズンであれば、世界上位ランカーは、世界を転戦するなかで、パラリンピック出場条件を満たしていくが、昨年11月、鈴木は海外遠征から帰国直後に行った新型コロナウイルス感染症検査で陽性反応が出て、その後、海外遠征ができず、パラリンピック出場に必要なWPAS公認のレースでポイントを持っていなかった。
編集注)パラリンピックの技術系、高速系種目に出場したければ、それぞれでWPASポイントを得ていなければならない。
そこで、実質、鈴木らを救済する措置として、日本障害者スキー連盟は、国際連盟との協議で本来、北京大会後に開催予定だった今大会を2月に移行。今大会で鈴木はパラリンピック出場のために「滑り切ること」が必須だった。もし、旗門を外し、途中棄権となれば、WPASポイントは得られず、パラリンピックに出場はできない。だからこその「安全な滑り」だった。
それだけにパラリンピック出場資格を得て迎えた最終日の得意種目は果敢に攻めた。「今大会で一番狙っている」と目を光らせた回転で、1本目は40秒75、2本目は40秒58で滑走。森井大輝(LW11)、狩野を抑えて優勝を果たした。「先輩方に負けたくないという気持ちがありました」
開幕まで1ヵ月の北京パラリンピックに向け、実戦で調整もできた。これまではアウトリガーでポールを倒していくスタイルだったが、体でぶつかっていく新しいスタイルを一部取り入れ、どれだけ通用するかを試した。座面の高さも変え、「気を抜かない状態で、このセットでどう滑るのか確認できたのはよかった」と振り返る。
鈴木がこうして準備を進めるのもすべてメダルのためだ。33歳の鈴木は、2大会ぶりのメダルを見据えて、「ここで満足しちゃいけない。残りの期間も練習を頑張って、北京に合わせていきたい」と気を吐いた。
高速系に軸を置く狩野亮、今大会を本番への糧に
この鈴木と全レース戦ったのは、高速系を得意とする狩野だ。ソチパラリンピックの滑降、スーパー大回転を制した34歳は、今大会での優勝はスーパー大回転第1戦に留まったが、「順位というより、しっかり収穫あるレースにしたかった」と、北京パラリンピックの土台固めにかかっていた。
今大会は国内での集中練習でつかんだ手ごたえを試す場にもなっていた。狩野は新型コロナ感染への懸念などのため1月の世界選手権の出場をキャンセル。「タフなレースだったと聞いている。それを味わえれば、違った意味で成長できたはず」と心残りはあったが、そのぶん国内で滑り込み、懸念材料だった右ターンに対する違和感を解消し、大会に臨んでいた。
「世界選手権に行っていれば、その感覚は得られなかったので、国内に残った選択も悪くなかったのかなと思っています」
北京パラリンピックでは、高速系に軸を置いて戦うことも明かした。「世界のレベルも上がり、年々、技術系で勝負できるレベルではなくなっている」とし、「だからこそ、得意なところで勝負していきたい」と打ち明けた。高速系で有利に戦うため、平昌後、徐々に体重を増やし、現在は5kg増の68kgだ。
パラリンピックに向けては、「北京には一度も行ったこともなく、一発で結果を出さないといけない。どんなどころでもミスを出さないように、コツコツ練習を積み重ね、あとはレース感を取りもどすことが課題かな」と語った。そのうえで、ベテランは「北京では、自分が速いのか遅いのかを見定めたい」と打ち明けていた。
森井大輝は準備万端で悲願の金メダルに向かう
平昌大会の滑降で銀メダルを獲得した41歳の森井は、1月31日に3度目のワクチンを接種し、大会3日目に初登場した。そのため、「体は重く、本調子ではない」としながらも、大回転で1本目は56秒38、2本目は53秒98、合計タイム1分50秒36で、2位の狩野に4秒19差をつけて優勝した。
圧勝という形だったが、森井の口から出たのは反省の弁だった。
「1本目は病み上がりなので体の調子を見ながらで。2本目は勢いあまって失敗した部分がある。本番ではこういうミスがないようにしたい」
北京大会は6度目のパラリンピックになる。これまで銀4、銅1を獲得してきたが、金メダルを手にしたことはない。だからこそ、「僕は誰よりも金メダルへの思いは強い」と語る。
この4年間は、悲願を達成するため、新たなチャレンジをした一方で慎重に過ごしてきた。森井は脊髄損傷という障がいとの関わりで発熱しやすく、2年前、初めての緊急事態宣言が出されたときには、自宅にジム施設を作り、体を鍛えてきた。その甲斐あって、体重は5kg増えて、69kgになった。
もちろん、用具へのこだわりも強い。今季、空気抵抗を減らすためのカウルを新調。映像や写真でも形が判別しにくい模様をつけて今大会のレースに挑んだ。「真似されないためです。今シーズンはパラリンピックで勝つという思いが強いので、できるだけクローズドにできる情報はクローズしています」という姿勢をとっている。
フレームやサスペンションもミリ単位で調整を重ね、「本番のコースに行ったとき、どうセッティングしようか、いろいろやっている」という。そのセッティングパターンは、いまや「101通り」にのぼり、未知の北京の会場に備えている。
「今シーズン、できる最大限の努力を積み重ねてきたつもりです」
悲願の「金」を目指し、森井はラストスパートを駆けている。
text & photo by TEAM A
photo by X-1