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ジャパンパラ優勝! ウィルチェアーラグビー日本代表「東京で金メダル」への本気度
毎年5月下旬に行われている「2018ジャパンパラウィルチェアーラグビー競技大会」。ウィルチェアーラグビー日本代表が実戦経験を積む場として始まり、今年で5回目を迎えた。
“金メダル請負人”として、リオパラリンピック後からチームの指揮を執るケビン・オアー氏は気合いを入れる。
「金メダルを目指すには、やらなきゃいけないことを正確に実行することが重要になってくる。この大会で求めるのは、それぞれの選手がパーフェクトなプレーをすることだ」
2016年リオパラリンピックで銅メダルを獲得した日本は、2年後に迫った自国開催のパラリンピックで金メダルを獲ることを目標に掲げている。今大会は、8月に世界選手権を控えたイギリス(世界ランキング5位)、スウェーデン(同6位)、フランス(同7位)を招へい。ライン(コート内でプレーする4選手の組み合わせ)ごとの連携の精度を高めるとともに、新戦力の強化を図った。
日本と同様に、6月のカナダカップに出場するスウェーデンは新戦力の強化に重点を置いたが、カナダカップに出場しないイギリスとフランスは、ジャパンパラを8月の世界選手権の前哨戦と位置づけ、ダブルラウンドロビンゲーム(同じチームと計2回対戦する総当たり戦)と順位決定戦で激しい試合を展開した。
金メダルを目指すチームは、シビアな視点で試合を振り返る
4日間に及ぶ大会の初日、日本は2勝と好スタートを切った。だが、リオパラリンピック銅メダルメンバーの乗松聖矢(1.5)が「パスミスやコミュニケーション不足が少し目立った」と話すように、連携に課題が残ったのも事実だ。
大会前の体調不良で大事を取り、ベンチから見守ったキャプテンの池透暢(3.0)も危機感を募らせる。
「日本が金メダルを獲るためには、アメリカやオーストラリアを倒さなければいけないが、そこに勝ちきれない理由がベンチで見ていてよくわかった」
少しの気のゆるみ、少しの声を出さない時間が命取りになる。世界一を目指すチームであるなら、たとえリードした状況においても、ボールをカットされないように周りを見ることを徹底し、さらにボーラーでない選手でも次なる展開を読み、手を休ませてはならない。日本にはそんな「あと少し」がまだ足りないという。
「『あと少し』の部分をみんなが気づいて、コート上で何が起こっても対応できる準備を常にすることが何より大切。さらに、それを習慣にし、日本のペースをつくっていくことがトップクラスであり続けるポイントになる」 とキャプテンは言葉に力を込めた。
また、エースの池崎大輔(3.0)は、さまざまなラインを試すなかで手ごたえを感じていた。池崎といえばこれまでコートを疾走して自ら得点することが多かったが、プレーの引き出しを増やしたことでパスの精度も向上。昨シーズン、同じアメリカでプレーした島川慎一(3.0)や互いの距離感を熟知してきた乗松へ絶妙なパスをつなげるシーンも見られ、観客を沸かせた。
「アイコンタクトなどのコミュニケーションがうまくいったところもあった。でも、それを継続してできるようにならなければいけないし、もう少し余裕を持ったボール運びができるようにしていきたい」
と決して満足はせず、さらなるレベルアップを誓っている。
リオ以降、日本の3.0プレーヤー(比較的障がいの程度が軽い選手)へのマークが一層厳しくなったというが、ち密な連携で相手のプレッシャーを跳ね返すつもりだ。
ラインの充実と競争も勝利のカギ
「日本は選手層が厚くなり、ますます強敵になった」
そう各国の首脳陣をうならせるほど、日本のランナップの充実ぶりは顕著だった。
ヘッドコーチのオアー氏が今大会で初めて起用した、永易雄(2.5)、官野一彦(2.0)、羽賀理之(2.0)、渡邉翔太(1.5)のミッドライン(※)は、完成度こそまだまだだが、3.0プレーヤーを休ませることができる組み合わせとあって、これからが期待されるラインのひとつだ。
※日本が誇るハイポインターを活かした組み合わせではなく、ミッドポインターが中心になるライン
4年ぶりの代表復帰となった北京パラリンピック日本代表の永易は「ミッドラインのなかで一番パスをさばけてゲームを落ち着かせることができるのが僕。(渡邉)翔太がボールを持って運ぶなどの持ち味も出せた。あとはコミュニケーション、スペーシング、パスのタイミングを磨いて期待に応えられるラインにしたい」と決意を語り、「強化のためのいい時間はもらえたが、(日本が唯一敗れた)イギリス戦でミスをした責任を感じている」と代表としての自覚ものぞかせた。
今大会のチーム最年少26歳の渡邉も、スウェーデン戦を中心に出場し、「(今までは別次元と思っていた)スピードのある選手にも頑張れば追いつけるという手ごたえのようなものを感じた」と収穫を語り、「もっと自分のスピードとパフォーマンスに自信を持ち、自分からどんどん声を出しコミュニケーションを図りながらプレーしていく」と充実感をにじませた。
大会は、多数のラインを鍛えながら、5勝1敗で予選を通過した日本が、決勝でイギリスを53‐46で下し優勝を果たした。
数あるラインのなかで決勝のスターティングラインナップに選ばれたのは、池崎(3.0)、池(3.0)、若山英史(1.0)、今井友明(1.0)だった。リオ以前、絶対的ファーストラインだった彼ら。その後ファーストラインを奪われるも、前日に息の合ったプレーを見せたことにより、虎視眈々と狙っていたスタメンの座を手に入れた。
「今大会はチームの戦略を深めることをテーマとしていたが、決勝は勝ちにこだわり、一番強いラインナップになるように編成した」とオアー氏。池は「チーム内の競争も起きているし、より信頼し合えるラインナップができている」と喜んだ。
とはいえ、7点差の勝利に満足しているものは、ひとりもいない。
「僕自身、決勝で2本のパスミスをして落ち込んでいるんですが……ミスのないよう100パーセントのプレーをしたい」というのはエース池崎の言葉だ。
1点、いやひとつのミスが致命傷になるパラリンピックの頂点争い。2年後のファイナルステージをも意識して戦う日本代表の“金メダルへの道のり”から目が離せない。
※カッコ内は、障がいの種類やレベルによって分けられた持ち点。
text by Asuka Senaga
photo by X-1