いよいよ開幕する北京冬季2022パラリンピック。選手はどんなポイントに醍醐味を感じて競技を行っているのだろうか。第一線で活躍する現役選手&メダリストに聞いた。
太田渉子が語る<クロスカントリースキー編>
大自然を相手にとことん自分の限界に挑戦している姿が魅力のクロスカントリースキー。まず選手の息遣いや力強いフォームにぜひ注目してください。私は、初めてパラのクロスカントリーを見たとき、視覚障がいの選手が急斜面、しかもすごいカーブを下る姿や、座位の選手が腕の力だけで上り坂を上がっていく姿にカッコよさを感じました。また、初めてこの競技を見る人には、まずスプリント種目をおすすめしたいです。他の種目だと、ゴールしないと順位が分からないのですが、スプリントは見たままが順位。障がいの重い人が先にスタートし、障がいの軽い選手が後から追いかけます。どんどん距離が縮まるから、必ずハラハラできる(笑)。応援したくなりますよ!
太田渉子が語る<バイアスロン編>
クロスカントリースキーのフリー走法に、射撃のおもしろさを組み合わせたのがバイアスロンです。上りで心拍数は最大190くらいに上がるのですが、射撃をするとき、そのままだとクリーンに撃てないので、心拍数を下げなければなりません。選手によって異なりますが、だいたい160~170くらいでしょうか。ですから、選手は射撃場に入るまでに呼吸を調整します。じつは走っている間に、銃の照準を調整している選手もいるんです。目というのは、毎日、見え方が違う。ですから、選手はレース中、スタッフが見せてくれる自分の弾痕を見て照準を修正しています。選手が、パンパン! とリズムよく5発全部当てていく様子を見られたら、気持ちがいいですよ。
(おおた・しょうこ)冬季パラリンピックに3度出場。クロスカントリースキー&バイアスロンのメダリスト。現在はテコンドー選手で、東京2020パラリンピックに出場 ▶
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市川貴仁が語る<スノーボード編>
スノーボード競技は2種目が実施されます。大会序盤に行われる「スノーボードクロス」は、3~4人で1組になって行う種目。直線では、時速80kmくらい出ることもあります。ぶつかり合うことがあるので、体格が弱いと吹っ飛ばされることも。だから、“雪上の格闘技”という別名がついています。クラッシュするかしないか、大丈夫かなというドキドキ感が楽しめる種目です。もう一つの「バンクドスラローム」は、バンクと呼ばれるカーブが連続するコースを、誰が一番速く滑れるかを競うタイムレースです。この種目の見所はいかにミスをしないか。一つミスをすれば、その後、スピードに乗るのが大変なので、速さと同時に慎重さが求められます。どちらの種目も違った面白さがありますよ!
(いちかわ・たかひと)左足ひざ下切断。22歳から本格的にスノーボードを始め、全国障がい者スノーボード選手権大会&サポーターズカップ4連覇中。北京2022冬季パラリンピック日本代表 ▶
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エッバ・オールショーが語る<アルペンスキー編>
18から19歳ぐらいまで健常者と一緒にアルペンスキーをしていて、2019~2020年にパラに転向しました。私が出場するアルペンスキーの立位・LW4クラスは足の障がい、とくにひざから先が欠損している人、私のように筋力が弱い人たちがいます。左右に違いがあったりして、筋トレの際に工夫してもなかなかバランスがとれた体にはならない。でもバランスがとれるようにトライし続けています。本当に障がいは人によって違うのですが、私の場合、皮膚が弱いので、プロテクターやインソール、着圧ソックスなどで補い競技をしています。障がいでできないことはありますが、選手はさまざまな工夫をしているので、そんな姿を見てインスピレーションを受けてもらえたらうれしいです。
(エッバ・オールショー / AARSJOE Ebba)子どものころからスキーに親しみ、2019-20シーズンからパラアルペンスキーに参戦。大回転、回転を得意とする。北京2022冬季パラリンピックスウェーデン代表 ▶
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戸田雄也が語る<車いすカーリング編>
男女混合、8エンド制で行うパラリンピックの車いすカーリング。オリンピックのカーリングとの最大の違いは「スイープ禁止」という点です。氷をブラシで掃いて距離を伸ばすなどの微調整ができないので、ストーンをいかに正確に投げられるかが非常に重要。強いメンタルが求められるスポーツです。石を投げる際にはデリバリースティックを使いますが、ハウスでストーンを止めるドローはもちろんのこと、腕のひねりで回転をかければガードストーンの後ろに回り込むカムアラウンドというショットもお手のもの。「投げたところ勝負」なので、柔軟に戦術を変えたりすることも。頭を使うので、試合前やハーフタイムには栄養補給が欠かせません!
(とだ・ゆうや)車いすカーリング歴10年目。札幌ブレイブスのフォースとして出場した2019年日本選手権で3位の成績を収めた ▶
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熊谷昌治が語る<アイスホッケー編>
冬季では、唯一、ゲーム性があるパラスポーツです。激しいボディチェックがありながらのゴールの奪い合いですから、やはり見ている人はおもしろい。当然、危険な行為はペナルティの対象ですが、壁に押しつぶされる程度では反則にはならないので、激しさはパラスポーツのなかでトップ1、2位を争うでしょう。激しさゆえに、選手は長時間、氷上にいられず、2~3分で交替するほど消耗が激しいんですよ。ただ、選手目線でのパラアイスホッケーの魅力は、パスワークや相手の裏を突くようなプレーだと思っています。北京大会の出場国では、4連覇をねらうアメリカが個々の力が強い。つなぎのうまいカナダ、交わすのがうまい初出場の中国あたりが対抗馬になりそうです。
(くまがい・まさはる)33歳のとき交通事故で右足を切断。その10年後、平昌大会でパラリンピックに初出場。長野サンダーバーズ所属 ▶
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text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda, X-1, Yoshio Kato