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自転車競技
はじめて乗れた! 笑顔が咲いたパラサイクリングイベント
自転車で風を切る爽快感を“すべての人”に。
そんな主催者の思いが込められたユニークなイベントが9月1日、静岡県・伊豆市で開催された。会場となったのは東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でも使用される、伊豆ベロドローム。常設の室内木製走路を有する日本初の自転車競技場である。当日、この美しい会場に集まったのは実に多彩な参加者たち。高齢者から子どもまで。そして健常者から障がい者まで。「自転車に乗れるようになりたい人 募集」というお題以外、参加者を限定する縛りは一切なし、という点がこのイベントの大きな魅力だ。
講師陣には、幅広い層に向けて自転車教室を開催するウィラースクールジャパンのメンバー、そして、野口佳子選手や石井雅史選手といった世界的に知られるパラサイクリングの選手らが集結。こうしたエキスパートたちの指導により、参加者の技術はみるみるうちに向上していった。
今回のイベントでは一般の自転車のほかに、ハンドサイクル・トライシクル(三輪車)・タンデム(視覚障がい向け二人乗り自転車)も用意された。
東京から参加した山本誠さんは視覚障がいがある。この日はタンデムにパラサイクリストと一緒に乗り込み、ベロドロームのトラックを疾走した。自転車に乗るのは子どもの頃以来、実に約40年ぶりだという。
「目が見えないと、もちろん一人で自転車には乗れません。でもパイロット(※)がいてくれたおかげで本当に久しぶりに自転車の気持ちよさを味わえました。タンデムは初めてでしたが、安心感がありましたね」
周回を重ねるごとにスピードをあげていった山本さんのタンデム。見ているだけで、山本さんの爽快感が確かに伝わってくる。
※タンデムでは後席に視覚障がい者選手、前席にパイロット(晴眼者)が乗り、自転車のハンドル操作を行う
三輪のトライシクルも多くの参加者を笑顔にした。脳性まひで足が思うように動かせない愛澤咲月さんは、生まれてから一度も自転車に乗ったことがない。この日は念願の自転車に乗れるチャンスとあって、京都から夜行バスを使ってベロドロームへやって来たという。そんな愛澤さんが足をペダルに固定してもらい、自力で漕ぎ出していく。次第にゆっくりと動き出した自転車を見て、周囲からは大きな歓声が上がる。人生において初めて、自転車を漕いだ瞬間だった。最初は競技場の中央でゆっくりと自転車を楽しんでいた愛澤さん。慣れてくると、トラックでの走行を楽しめるまでに。ひとしきり乗り終えたあと、満足げにこう語ってくれた。
「本当に京都から来た甲斐がありました。10代の頃は二輪の自転車をずいぶん練習していたんですけど、どうしても乗れなかったんです。このとき、仕方なく自転車に乗ることを諦めただけに、今日は感激が大きかった。諦めからのチャレンジ。こんなに自転車が楽しいとは思っていませんでした。スポーツとは縁がなかったんですが、今日は改めてパラサイクリングに強い興味を覚えました」
障がい者だけでなく、健常者や子どもたちの参加がイベント全体の価値を高めたと言えるだろう。目的は、それぞれの人が自分の壁を乗り越えるべく挑戦し、笑顔になっていくこと。そんな体験を障がい者、健常者が一体となって共有できた、素晴らしい一日となった。
日本財団パラリンピックサポートセンターのあすチャレ!運動会ナビゲーター『ブッキー!』こと伊吹祐輔もハンドサイクルに挑戦。
※本事業は、パラスポーツ応援チャリティーソング「雨あがりのステップ」寄付金対象事業です。
自転車競技について:
https://www.parasapo.tokyo/sports/cycling
一般社団法人日本パラサイクリング連盟:
http://www.jpcfweb.com/
<INFORMATION>
2018日本パラサイクリング選手権・トラック大会
■2018年9月8日(土)~9日(日)/伊豆ベロドローム
※パラリンピック・アクセシビリティMAP 伊豆ベロドローム編も近日公開予定!
text by Piroshi Utsunomiya
photo by Munenori Nakamura