-
- 競技
-
アーチェリー
強風で番狂わせ多発!JPAF杯パラアーチェリートーナメント大会
9月9日、埼玉障害者交流センターで「第4回JPAF杯パラアーチェリートーナメント大会」が行われた。同大会は、大会実行委員会が定めた記録をクリアした者のみに参加資格が与えられる国内最高峰の大会で、男女別のリカーブオープンとコンパウンドオープン、そして男女混合のW1の計5種目に分かれて競い合う。今回もリオパラリンピック7位の上山友裕(リカーブ)や、2018年ヨーロッパカップのミックス戦で金メダルの永野美穂(コンパウンド)をはじめ、国内トップクラスのパラアーチャー計38人が集結し、日本一を決める戦いにしのぎを削った。
オリンピックラウンドで戦う国内唯一の大会
この大会、4回目とはいうものの、その前身は20年前の1998年に始まったジャパンパラアーチェリー競技大会にある。これが2013年に終了したことを受け、日本身体障害者アーチェリー連盟が主催者となって本大会を2014年からスタートさせた。この大会の開催意義を関係者はこう語る。
「パラリンピックなどの国際大会はオリンピックラウンドと呼ばれる、1対1のトーナメント形式で行われるのですが、国内で唯一、この形式を採用していたのがジャンパンパラ競技大会でした。国際競技力の向上のためにも、このオリンピックラウンドに慣れることが不可欠です。そのため、ジャパンパラ競技大会終了後も、日本身体障害者アーチェリー連盟の主催大会として引き続き開催しています」
今年度の大会は、東京2020パラリンピックを目指すうえでも重要だ。東京パラリンピックで上位に食い込むには、まずは2019年度の強化指定選手に選ばれ、世界選手権大会などの国際大会に出場し、結果を出すことが不可欠だからだ。強化指定選手に選ばれるためには、日本身体障害者アーチェリー連盟または全日本アーチェリー連盟主催の大会に出場し、強化選考基準点をクリアすることが条件となる。当然、今回の大会もその対象となっているため、どの選手も気合十分だった。
さらに、今年度の強化指定選手は、1ヵ月後にアジアパラ競技大会(インドネシア・ジャカルタ)が控えている。自国開催のパラリンピック前“最後の総合大会”を目前にし、「JAPAN」のロゴを背負った選手たちには、静かな闘志がみなぎっているようだった。
強風に苦戦し、今後の課題が浮き彫りに
ところが、今大会は多くの選手が試合で苦しむことになった。その敵は、風である。
予選ラウンドは36射を2回、計72射を放つのだが、その1回目の途中、予選ラウンドが始まってから約40分後に南寄りからの風が吹き始めた。会場のある埼玉県を活動拠点とし、比較的、風の試合への苦手意識が少ないという平澤奈古(女子コンパウンドオープン)は、試合を振り返ってこう話す。
「埼玉は風の日が多いように思いますが、それでも今日はいつもの5倍くらい強く感じますし、私のキャリアの中でも3本指に入る強さだと思います」
アーチェリーは風の影響を受けやすい。風が吹くと、弓を支える腕が揺れるため、的を狙いにくくなるのだ。風が吹き始めるまではテンポよく弓を引き、矢を放っていた選手たちも、徐々に一度引いた弦を戻す姿が増えるとともに、的の真ん中に集まっていた矢が1本、2本とばらけ始め、それとともにポイントを落としていった。
波乱の結果に、優勝候補も悔し涙
決勝ラウンドでは波乱も起こった。男子リカーブオープンでは、国際経験豊富な強化指定選手の3人中2人が1回戦で姿を消した。また、終始表情が優れなかった女子リカーブオープンの優勝候補、重定知佳は決勝戦で敗れ去り、涙が止まらなかった。
「風が私の弱点ですね。でも慣れるしかありません。(今日の自分に点数をつけるとしたら)0点です、マイナスです。負けたら一からやり直せという感じです」
大半の選手が強風に苦戦する中、風の影響を感じさせない高得点で予選を1位通過した男子コンパウンドオープンの安島裕は、セミファイナルで敗れ3位に終わった。
「(セミファイナルの)最初は相手選手よりリードしていたこともあり、ジャカルタでも強い風が吹くかもしれないと、あれこれ風対策を試していたんです。すると次第に点差が縮まり、最後に逆転されてしまいました。改めて、最後の一射まで気を引き締めてうたなければ勝てないんだなと思いました」
東京パラリンピックのアーチェリー会場は、海に面した夢の島公園(江東区)だ。海風が吹くことが予想されているだけに、風対策は必須といえる。そういう意味で、今回の強風は世界の表彰台を目指す選手にとっても良い経験となったはずだ。また、悪条件の中でも最後まで気持ちを強く保ち、大会を制した優勝者たちにとっては、大きな自信となったに違いない。
今大会では、強化指定選手以外の選手の活躍ぶりも目を引いた。この先、パラアーチェリー界の競争が激化することは必至だろう。そして、どの選手が2020年の大舞台への切符をつかむか、その道程も含め今後も目が離せない。
大会優勝者
●大山晃司(W1)
「今までに経験したことが無いぐらい強い風でしたが、いい経験になりました。この風に慣れれば海外の試合でも強くなれると思います。最終目標は、東京で決勝の舞台に立ちメダルを獲ることです。その通過点として、一つひとつの大会で上位に食い込むなどいい結果を残し、いい状態を保ちつつ東京パラリンピックを目指したいです」
●宮本リオン(男子コンパウンドオープン)
「とくに優勝決定戦のときは、選手が立つシューティングラインと的の前、そしてシューティングラインから的までの風の向きが全然違っていました。これはなかなかない状況だったと思います。勝因は思い切り射ったことでしょうか。今回の優勝で来年度以降、そして2020年に向けて弾みをつけられたと思います」
●永野美穂(女子コンパウンドオープン)
「たしかに風は強かったのですが、みんな同じ条件なのでがんばらないと、と思っていました。(勝てたのは、矢を的のまん中に)入れたいという気持ちと、日ごろから応援してくださる皆さんのおかげです。アジアパラ競技大会は第1回大会で金メダルを獲っているので、10月のジャカルタでも金メダルを目指します」
●上山友裕(男子リカーブオープン)
「実は3年前から国内では負けなしなのですが、世界で勝つためにも、国内ではただ勝つのではなく、圧勝しなければならないと思っています。そのため、今日は全試合完封勝利を目指しましたが、決勝では松下勇選手が強く、ポイントを取られてしまいました。(決勝ラウンドで他の強化指定選手が敗退したため)僕だけはなんとしても勝たなあかん、どんな状況でも的の真ん中に矢を当てなくてはという気持ちで臨み、勝てはしましたが、点数を見るとやはり悔しさが残ります」
●小野寺朝子(女子リカーブオープン)
「和楽器演奏の仕事をしています。実は今日は本番があったのですが、師匠に代役をお願いしてまでこの大会に出場したので、絶対優勝しなければという強い気持ちで臨みました。和楽器演奏もアーチェリーも同じことを繰り返すところが良く似ていて、私に合っていると思っています。東京パラリンピックに出場することが自分の仕事だと思っていますから、そこをしっかりと目指していきます」
アーチェリー競技について:https://www.parasapo.tokyo/sports/archery
text by TEAM A
photo by X-1