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アルペンスキー
アルペンスキー森井大輝、5大会連続メダル獲得もどん欲に「次は真ん中」
フィニッシュラインを切った瞬間、北京の空気を胸いっぱいに吸い込み、両手を大きく広げた。
日本が誇るスピードスター・森井大輝の表情は、5大会連続のメダル獲得に安堵しているようにも見えたが、悲願の金メダルに届かなかった悔しさが入り混じっているようでもあった――。
トップスキーヤーたちが恐れる難コース
北京冬季パラリンピックの競技初日となる3月5日、アルペンスキー男子滑降(座位)が行われた。
雲一つない晴天下、最初にスタートを切ったのは、世界王者のイェスペル・ペデルセン(ノルウェー)だ。雪煙の上がらないそのシュプールには無駄がなく、いきなり1分17秒99の好タイムを叩き出した。
世界選手権2位のイェロン・カンプシュアー(オランダ)、日本の狩野亮、鈴木猛史が続いて滑降するが、ペデルセンのタイムを越えられない。それでも38歳の伏兵、コーリー・ピータース(ニュージーランド)がペデルセンを1秒26上回ったところで、いよいよ森井の出番がやってきた。
森井はこのコースに対して、恐怖心を抱いていた。レース前の公式練習から、ライバルたちも「かなり難しいコース」と口を揃えるほどの難コース。スタート直後から崖のような急斜面が待ち受け、その後もすり鉢状になった部分や、両側のネットが目前に迫る狭いトンネルのような箇所など難所が連続する。そのうえ、滑走面は氷のように硬い。
森井自身、3回の公式練習のうち、2回コースアウトしていた。
果敢に攻めて引き寄せた銅メダル
本番のレースで消極的になってもおかしくない森井だったが、応援してくれる人たちを思えば中途半端なレースはできない。「『もっと攻めればよかった』という思いがないようにしたかった」と、熱い気持ちは消えていなかった。
「GO!」という力強い声を背中に感じスタートした森井は、前半を上位タイムで通過するが、中盤以降、大きく軌道が膨らむシーンもあった。それでも旗門に体をぶつけていく際どいラインどりでしっかりとしのぎ、フィニッシュ時点で3位となる1分18秒29をマークした。
森井の後は9選手がコースアウトし、森井を上回る選手も現れず。41歳のベテランに、銅メダルがもたらされた。自身通算6個目(銀4、銅2)のメダルだ。
勝つために、自宅の一部をジムに
「とても苦しいレース。コースに対する恐怖心から解き放たれた感じでした」
レース後にそう語った森井。それは北京大会までの日々とも重なるようであった。森井はベテランとなってなお、進化を追い求めていた。
コロナ禍での感染リスクを減らすなどのため、私費を投じて自宅の一部をジムに改修した。「世界に比べると(体重が)軽い」という肉体の課題にも向き合ってきた。その結果、体重は64kgから69kgにアップした。
用具にもいっそうこだわった。所属先である自動車メーカーの全面バックアップでマシンの改良を続け、いまや状況に合わせてのサスペンションやフレームのセッティングパターンも「100通り以上ある」。
すべては金メダルのためだった。
表彰台の真ん中に立つ!
本番を一つ終え、「もうスピードに対しても、ターンにかかってくるG(重力)に対しても体に免疫ができてきた」と実感を得ている森井。あとは、自分の奥底にある願いを追求するだけだ。
「表彰台に上ることはうれしい。でもここには、3番というメダルをとりに来たわけではない。次は自分が最大の目標にしている真ん中に立てるように頑張っていきたいです」
日本のエースとして、この競技を長年引っ張ってきた森井。シルバーコレクター、ブロンズコレクターで終わるつもりはない。残りの4レースで悲願の金メダル獲得を狙う。
text by TEAM A
key visual by REUTERS/AFLO