「OEN-応援」する人~テクニカルサポートスタッフ編/車いすバスケットボール~

「OEN-応援」する人~テクニカルサポートスタッフ編/車いすバスケットボール~
2018.09.14.FRI 公開

来たる2020年、東京パラリンピックで世界最高のパフォーマンスを楽しめるのは22競技540種目。もちろん、各競技のアスリートは気になるところですが、選手や競技、大会を支える人たちがいることもパラリンピック、パラスポーツならではのおもしろさ。さまざまな立場で競技を愛し、選手や大会を支える人にフォーカスする「OEN-応援する人」シリーズ。2020年に向けて、パラリンピックムーブメントをきっかけとした共生社会が実現するように、パラリンピック、パラスポーツの関わり方を紹介していきます。

細心かつ迅速なメンテナンス。
勝敗に大きく関わるテクニカルサポートスタッフ

車いすをはじめとするギア類は、いわばパラアスリートにとっての手足だ。ほんのわずかな不調が競技結果に大きく影響する。選手のクセや好みを知り尽くす、テクニカルサポートスタッフの想いとは。


株式会社松永製作所 
植野 正雄さん

Q.試合当日は、どんなことをするの?
A.試合中の“選手の違和感”を調整します

試合中のトラブルで多いのはパンクです。その他、使用している選手でなければわからない違和感を調整します。タイヤのゆがみ、いつもよりタイヤの幅を微妙に変えたいとか。これらのオーダーを、その場で迅速に対応し、試合に送り出すのが私たちの役目です。

Q.競技用車いすの製作に携わり、障がい者へのイメージは変わった?
A.パラアスリートを障がい者だと思ったことはありません

そもそも、彼らを障がい者として見たことはありません。すぐれたアスリートとして尊敬していますし、友だちだと思っています(笑)。

Q.試合を観ることはあるの?
A.観ますが、試合ではなく車いすを見ています(笑)

私は、日本代表チームのテクニカルスタッフの一人として試合に同行します。でも、試合全体を観ることはほとんどなく、派手なあたりのときに車いすは大丈夫か? とか、トラブルはないか? など、視線は車いすばかり追いかけています(笑)。

Q.試合に必ず持参する道具とは?
A.空気入れと空気圧計です

タイヤが重要なので、空気入れは必須です。空気圧もセッティングのひとつとして重要で、選手から指定された数値を計るゲージもセットで持参します。ゲージ付き空気入れはサイズが大きいので、海外遠征のときにはポータブルタイプを持参して臨みます。

空気圧計
ポータブルタイプの空気入れ
大会用に持ち運ぶ工具一式。現場での経験から厳選されたものが並ぶ。

Q.2020年パラリンピック東京大会に向けて、どんなことをしたい?
A.メダル獲得のための車いす作りに尽力したいです

私は選手と直接話して、車いすについていろいろ意見が聞ける立場です。それを設計士に伝え、選手たちの要望を形にできるよう日々心掛けています。私たちの努力が、メダルを獲るために少しでも貢献できたらうれしいですね。日本の車いすメーカーとして海外へとアピールできるチャンスでもあるので、がんばります。


日進医療機器株式会社
稲葉 誉人さん(左)/武政 秀則さん(右)

Q.競技用車いす作りの醍醐味とは?
A.オーダーメイドで選手の理想に近づけることです

稲葉:競技用車いすはオーダーメイドなので、選手の希望を聞きつつ提案していくことが重要です。選手の好みはもちろん、ポジションによっても求められるものは異なります。とはいえ、工業製品なので実現できることには限りがあるのですが、それをどこまで理想に近づけていくかというのは、私たち作り手としてもやりがいがあります。さらに、その車いすでメダルを獲得してもらえたら、作り手冥利につきます。

Q.テクニカル1年目の武政さん、将来の夢を教えて!
A.世界各国のプレーヤーたちに弊社の車いすを使用してほしいです

武政:覚えることばかりでまだまだ未熟ですが、いつかは世界のパラアスリートたちに一目置かれる車いすを作りたいです。車いすバスケットボールをはじめ、世界中のパラアスリートたちが弊社製の車いすで活躍してくれたら最高ですね。

Q.やはりテクニカルに重要なのは、経験値なの?
A.経験値と現場での発想力です

武政:一通りのメンテナンスはできるようになりましたが、まさかのトラブルが起こるとどのように対処するべきか戸惑うことがあります。そんなとき、稲葉さんがその場の発想力で解決する姿を見ると、もっと経験を積んで選手たちに頼られる存在になりたいなと思います。
稲葉:試合会場では想像もつかないトラブル対応をする場合があります。限られた状況の中で対応するには、経験はやはり重要だと思います。でも経験を積むことで、あれにはこの道具だな、この場合のときにはこれも使うな、と必要以上に工具を持参するようになってしまいました。結局あまり使わないケースが多いんですけどね(笑)。


株式会社オーエックスエンジニアリング
高木 裕史さん(左)/鈴木 健司さん(右)

Q.競技用車いす作りに携わろうと思った理由は?
A.日常用車いす作りでは味わえない機能性が興味深いのです

高木:私はもともと競技用バイクの製造に携わっていましたが、縁があって競技用車いすを作ることに。バイク時代から数えて30年ほど製造に携わっています。日常用も競技用もオーダーメイドでお客さまの理想に近づける点は同じですが、競技用車いすには勝敗が関わっている。そこが同じ車いす作りで大きく異なり、我々作り手が夢中になる理由かもしれません。
鈴木:私は高校時代の卒業制作として車いす作りと出合い、新たな世界が広がったという感じです。競技用車いすはブレーキもないし、折りたたむ必要もありません。選手の声を聞きながら、必要最低限の機能を残しつつ、とにかく勝つための機能性を高めるというのは、エンジニアとしてやりがいがあります。

Q.競技用車いすの寿命はどれくらい?
A.メンテナンス次第です。長持ちさせるサポートをします

鈴木:選手の使い方やポジションによっても耐久年数は変わると思います。でも決して安価なものではないので、長く使用できるようメンテナンスをするのが私たちの役目です。壊れた部分は修理しますし、力がかかってダメージが受けやすい部分は補強をしたり。選手にとって、私たちが作った車いすが最高の相棒になってほしいですね。

Q.試合に必ず持参する道具とは?
A.トーアングルゲージは必須です

高木:修理に関する工具はもちろん、トーアングルゲージは必須です。タイヤが平行になっているかを計る道具です。当たりまえですが、タイヤが平行になっていないと真っすぐ走れず、競技に大きな影響を与えます。この道具に車いすごと乗ってもらい、平行でない場合は即座に調整します。

Q.2020年パラリンピック東京大会に向けて、どんなことをしたい?
A.弊社車いすを日本代表選手たちに使用していただけるよう努力します

高木:車いすバスケットボールの日本代表選手で、弊社の車いすを使用している方は多くありません。使用してみたい、と思っていただけるよう開発はもちろん、フォロー体制なども整える努力をしています。使用していただけたら一丸となって選手をサポートします。

※取材日:2018年5月20日/天皇杯 第46回日本車いすバスケットボール選手大会

text by Miho Sasaki(都恋堂)
photo by Parasapo

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