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クロスカントリースキー
川除大輝2個目の金メダルはおあずけも、春の陽気で再び“開花予報”
北京冬季パラリンピックの競技5日目の3月9日、クロスカントリースキーの男子1.3kmスプリントフリー立位が行われ、2日前の男子20kmクラシカル立位で金メダルを獲得した川除大輝が出場。2冠が期待されたが、準決勝2組で4位に終わり、3位までに与えられる決勝行きの切符を逃した。順位ひとつ及ばなかったが、パワーある海外勢に対し、最後まで金メダリストとしての意地を見せた。
平昌大会から成長し「あきらめない走り」に
川除は前半の上り坂、近くで争っていた他の選手と板が交錯して、転倒してしまった。準決勝では障がいの程度によりタイム差がつけられてスタートするが、6人が一緒に滑って競り合うため、この競技ではよくある出来事。川除は「自分の不注意」と潔く認めた。
そんなロスはあったものの、得意の上り坂では腕をしっかりと振って前との差を詰め、最後まで決してあきらめず、決勝進出の可能性に食らいついた。ロスがなければ……と思えるところだが、川除は「実力不足」ときっぱり。「決勝に行けなかったのは悔しくて満足していないけれど、力を出し切れました」とレースを振り返った。
このコメントからは、平昌大会からの格段の成長がうかがえる。当時は「ちょっとうまくいかないことがあると、すぐにあきらめている部分があった」という。北京大会で金メダリストになっても、いつも口角の上がった優しい雰囲気は変わらないが、レースへの執着は確実に強くなっている。
一人の自立したアスリートとして
成長の姿がうかがえるのはレース中だけではない。川除は周囲に、自分の意見をはっきりと言えるようにもなった。金メダルを獲得した20kmクラシカルでは、ワックスの選定について積極的に意見を出したという。アップのあと、気温が上がることを見越し、ワックスマンに「もう少し強めで」と要望を出し、狙いがピタリと当たった。
「途中でスキーのチェンジもできましたが、それだと時間がロスになる。もし他の選手が変えなかったらとも考え、僕は最初から1本の板で行こうと決めていた。グリップワックスも後半まで止まってくれて、後半突き放すことができました」
1年前、札幌でのジャパンカップで「どちらかというと、ワックスに関しては、コーチに頼っています」と少し困った顔をして答えていた頃の面影は消えている。
情熱を支える冷静な分析力
北京のコースについても「自分に合っている」と冷静に分析していた。
「今回、上りから下り、しかも小回りしてつなぐというコースレイアウトが多かったんです。海外選手は一歩一歩が大きいので、細かい小回りがきかない。でも、この僕の体では、小回りの多いコースがすごく合っているのかなと思いました」
直線の多い下り基調のコースなら、重量のある選手がスピードに乗りやすいが、コースがうねっていれば、大きな差は出にくい。川除はそこから勝算を弾き出していた。
スプリントでは決勝進出を逃したが、こうした分析は、この後のレースにも生きてくる。さらに春めいて雪がとけてくれば、川除にはチャンスが広がる。雪が柔らかくなれば地面の反発力が弱まり、重い選手は雪に沈んでいく。一方、小柄な川除はそれほど沈まない。いっそう回転数を上げていけるのだ。
柔らかい雪なら「けっこうイケる」
「(生まれ育った)富山も気温が高くてすぐ雪がとける。今まで似た雪質でたくさん練習していますし、札幌のジャパンカップのフリーでも、柔らかい雪で優勝できた。けっこうイケるかな、頑張りたいという気持ちになります」
垣間見えるのは、きらりと光る意欲。「この4年間で僕もいろんな大会を乗り越えてきた。(北京パラでは)成長した姿を見せたい」と語っていた川除は、クラシカルの金メダルだけに留まらないさらなる自身の成長を模索している。
21歳の川除がどこまで飛躍を遂げるか、見逃せない。
text by TEAM A
key visual by AFLO SPORT